| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-066

カワラノギクにおける植栽個体群の増加は生態学的研究を不可能にするか

*倉本宣(明大・農),芦澤和也(明大・院・農),岡田久子(明大・農)

環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IB類に位置付けられているカワラノギクAster kantoensis kitamuraは、現在、多摩川、相模川、鬼怒川に生育が確認されている。カワラノギクは礫河原の保全のシンボルとなっているので、3河川それぞれ野生個体群の衰退とともに保全活動が活発に行われるようになっている。

その結果、河川ごとのメタ個体群に占める野生個体群の比率、絶対数ともに減少が著しい。2009年秋の開花期の調査によれば、多摩川では12の局地個体群のうち、野生個体群は2つに過ぎなかった。しかも、野生個体群の1つは起源は野生起源であったものの、保全活動によって礫を敷き均した場所が造られて播種されたりクズやシナダレスズメガヤなどが除去されたりと大幅な改変を受けていた。相模川では5つの局地個体群のうち、野生個体群は1つに過ぎず、しかも唯一の野生個体群は除草や灌水などの人為的な管理を大きく受けていた。鬼怒川では4つの局地個体群のうち、野生個体群は1つに過ぎなかった。

さらに、保全活動の技術が向上して野生個体群と識別のむずかしい植栽個体群が多摩川と相模川で多くなってきた。これらの植栽個体群は礫河原のカワラノギクの生育適地に播種によって成立したものであった。

本講演では、保全活動の影響が大きい絶滅危惧植物について生態学的研究を行う場合に、可能なこととすでに不可能になってしまったことを検討し、保全生態学的な研究においてこのような植物を取り扱うことの可能性と限界について論じたい。


日本生態学会