| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-069

形質ベースアプローチによる霞ヶ浦の湖岸植生変化の分析

西廣淳(東大・農)

近年、生物多様性の現状や変化の傾向を把握する手法として、群集構成種がもつ機能的形質の分布や多様性に着目した評価が注目されている。それは、生態系の諸プロセスへの影響が大きい形質に注目して解析することで生態系機能の変化を予測したり、環境変化による影響を受けやすい種に共通する形質を抽出することでモニタリング指標として適切な種群を選定したりすることができるからである。前者は効果形質、後者は反応形質に注目した解析と呼ばれる。本研究では霞ヶ浦の湖岸植生を対象として、環境変化に伴って減少・消失した種に共通する反応形質を抽出し、今後の保全や再生におけるモニタリング指標を検討した。

霞ヶ浦では1971年および1972年に湖岸の多数の地点を対象とした植物相調査が、1992年以降は5年に一度の頻度で国土交通省河川水辺の国勢調査による植物相・植生調査が行われている。71年から近年にかけての霞ヶ浦における、湖岸植物相に強く影響する可能性がある環境変化としては、水質の悪化、抽水植物帯の分断化・縮小、水位の季節変動の喪失が挙げられる。これらはそれぞれ、沈水植物種の減少、動物媒植物の減少、一年生など短命の種の減少を招く可能性が予測される。この予測を検証するため、71年に確認された種の2002年における在/不在(それぞれ2箇所以上で確認された場合を在とした)を目的変数、各種の生育型(沈水、浮遊、浮葉、抽水・湿生、非湿生)、送粉様式(動物媒、風媒、水媒)、生活型(一年・越年生、多年生)を固定効果、系統的地位をランダム効果とした一般化線形混合モデルによる解析を行った。その結果、1970年から2002年にかけて確認されなくなった種の形質として、沈水植物であることおよび動物媒花であること、が抽出された。これらの形質をもつ種は、霞ヶ浦と類似した環境変化が生じている湖沼においても、重要なモニタリング対象となると考えられる。


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