| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-088

北海道勇払地方における安平川河道閉鎖後の残存フェン群落の種組成と分布パターンの変化

*矢部和夫 札幌市立大,永美暢久 北大農学院,中村太士 北大農学院

安平川湿原はこの地方で最大のフェンの面積を有している一方で、現在開発と保全の問題に直面している。安平川湿原について、勇払地方にある他の7湿原と湿生自然草原群落(フェンとボッグ)の比較を行い、その特徴を検討した。

TWINSPANの結果、7湿原の湿生自然草原は氾濫原湿原のA(イワノガリヤス)群(A1:ツルスゲ‐イワノガリヤス群落型、A2:オオアゼスゲ‐イワノガリヤス群落型)と谷湿原のC(ムジナスゲーワラミズゴケ)群(C1:ワラミズゴケ群落型、C2:ヤチスゲ‐ムジナスゲ群落型、C3:ヌマガヤ‐ムジナスゲ群落型)に分かれた。一方、安平川湿原では、A群とB(ヒメシダ)群(B1:イワノガリヤス‐ヒメシダ群落型、B2:ムジナスゲ‐ヒメシダ群落型)が見出され、A群のうちではA1群落型が優占していた。B1群落型はA群との共通種が多く、海岸砂丘種や帰化植物も含まれており、B2群落型はA群とC群の共通種が多かった。水位はB1群落型とB2群落型で特に低く、ECとpHはB2群落型で低かった。

安平川湿原では1975年に谷湿原のC2群落型など高水位な立地の群落が在ったが、現在消滅した。1956年の河道変更によって、湿原は河川水の流入を遮断され、氾濫が停止し水位低下が起こったらしい。水位低下によって、特に乾燥地で生育するヒメシダが優占するB群が拡大した可能性が高い。またB2群落型のムジナスゲは、酸性で貧栄養な環境で優占するので、氾濫の停止による貧栄養化や酸性化によって拡大したと考えられる。ハンノキ湿地林は29年間で約1.5倍に拡大したが、水位低下などの水文環境の変化がその要因であろう。

勇払地方で最大面積のフェンが現存し、独特のフェン型を有する安平川湿原の保全は必要であり、水文環境を河道変更以前の状態に近づけることが有効である。


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