| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-115

生物多様性指標種候補ヤリタナゴの分布を規定する要因

*照井慧(東大・農),松崎慎一郎(東大・地球観測データ統融合),児玉晃治(福井県海浜自然セ),多田雅充(福井県海浜自然セ),鷲谷いづみ(東大・農)

日本の水田生態系は多様な淡水魚類が生息する場所として知られている。しかし、近年では圃場整備による水系連結の分断化、侵略的外来種などの影響により多くの種の絶滅の危険性が高まっている。淡水二枚貝に産卵するタナゴ類では、14種中13種が環境省レッドリストに記載されており、近年の環境変化の影響を強く受けていることが示唆される。

生物多様性が急速に失われる過程として、特定の種群が局所絶滅することでその種と生物間相互作用で結ばれた種が影響をうける、絶滅の連鎖が想定される。本研究では、タナゴ類の絶滅の危機に産卵床である淡水二枚貝との生物間相互作用が影響している可能性を考慮し、ヤリタナゴの生息に影響を与える要因を分析した。調査は福井県三方湖流域の68地点で2009年7月〜9月に実施した。各地点でヤリタナゴ、侵略的外来種(ウシガエル、オオクチバス、アメリカザリガニ)の在・不在、および環境要因(物理環境、植生)を記録し、淡水二枚貝(ドブガイ)との連結性はヤリタナゴの調査地点から水路延長100m、150m、200m、250m、300m、400m、500mの範囲における在・不在によって評価した。これらのデータからヤリタナゴの分布規定要因をGLMMによって分析した。

総当たりモデル選択の結果、ベストモデルにはドブガイとの連結性、局所のウシガエルの在・不在、および水深が選択された。ドブガイが水路延長250m以内に存在し、ウシガエルがいない、水深の浅い場所においてヤリタナゴの出現頻度が高かった。

ヤリタナゴと在来魚種数の関係を解析したところ、ヤリタナゴのいる所では在来魚の種数が多いという有意な関係が認められた。ヤリタナゴはこの地域の水田生態系の魚類相からみた健全性の指標種として有用であることが示唆された。


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