| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-117

保全上重要性の高い湖岸湿原におけるFacilitatorとしてのカモノハシ

WANG Zhe(東大・院・農・保全生態)

霞ヶ浦湖岸の浮島湿原は、絶滅危惧種12種を含む300種以上の在来湿生植物が生育する保全上重要な湿原である。1996年に霞ヶ浦の水位管理方針が変更されて以来、植生が大きく変化しており、特にイネ科植物カモノハシの優占域が縮小している。

先行研究により、カモノハシ優占域は湿原内でも特に植物種多様性が高いことが明らかにされている。本研究ではその理由について、「カモノハシ株が形成する微高地と、微高地上に生育する蘚類が、他種に発芽セーフサイトを提供することにより、植物種多様性を高めている」という「カモノハシによるfacilitation仮説」を提示すると共に、野外調査と操作実験による検証を試みた。

浮島湿原内に10×10cm2方形区を90個設置し、出現種、比高、蘚類の有無を記録し、カモノハシ以外の在来種の出現可能性に対するカモノハシや蘚類の存在、微地形の効果を、階層ベイズモデルで解析した。その結果、10種中4種でカモノハシの形成する微高地による正の直接効果、更にそのうち3種では微高地上に生育する蘚類を介した正の間接効果が認められた。また、10種全般の存在に関しても、これらの直接・間接効果は有意であった。

微高地上に蘚類が生育する場所・しない場所・微高地周辺地表面のそれぞれに25×25cm2方形区を12個ずつ設置して、出現実生とその生存を調査した。その結果、在来湿生植物実生の出現・定着については、蘚類の効果は検出されないものの、微高地は有意な効果をもたらしていた。この傾向は各方形区内に種を50粒添加した処理でも認められた。

これらの結果から、仮説は部分的に支持された。即ち微高地形成を通したfacilitationは認められた。ただし、蘚類による実生出現・定着への促進効果は認められなかった。これは、調査した2009年春の降水量が比較的多かったことが影響している可能性がある。


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