| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-120

暖温帯のオオミズゴケはどのように光合成生産を行っているのか?

*福田栄二(広島大・総合科学),佐々木晶子(広島大・院・生物圏),中坪孝之(広島大・院・生物圏)

オオミズゴケ(Sphagnum palustre)は、環境省レッドリストで準絶滅危惧種に指定されており、その群落は希少な湿生植物の生育地にもなっている。ミズゴケ類の多くは寒冷地を中心に分布しているが、本種は例外的に寒帯から暖温帯にまで広い分布域を持つことが知られている。しかし、暖温な環境下で本種がどのように物質生産を行い群落を維持しているのかについての情報はほとんど無い。そこで、本研究では、暖温帯でオオミズゴケはどのように光合成生産を行っているのか明らかにすることを目的とした。

広島県東広島市の溜め池上流部(標高約250m)に生育するオオミズゴケ群落を調査対象とした。春・夏・秋・冬の各シーズンに表層5cmをコアサンプルとして採取し、その光合成・呼吸特性を赤外線ガス分析装置を用いた同化箱法により測定した。最大光合成活性(700-900μmolm−2s−1PPFD、15℃)には季節変化が認められ、夏・秋期では春・冬期に比べて約2〜3倍程高かった。温度‐光合成測定の結果、純光合成速度(Pn)の最適温度は年間を通じ20℃前後にあり、春期のPnは30℃で著しい低下が認められたのに対し、夏・秋期ではほとんど低下しなかった。

外気温・ミズゴケ表層温度を連続的に測定したところ、ミズゴケ表層温度は日中では外気温よりも低く保たれる傾向が認められ、その差は30℃を越える真夏日には10℃以上になることもあった。そのため、期間を通じて表層温度が30℃を超えることはなかった。

以上の結果から、オオミズゴケは、夏・秋期に高い光合成活性を持ちその活性が高温下でも維持されるとともに、表層温度が比較的低く保たれることで暖温な環境下でも活発な光合成生産を行っていることが明らかになった。


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