| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-274

ヒノキ林における葉窒素濃度と幹成長速度の関係

稲垣善之(森林総研),中西麻美(京大),深田英久(高知森林技セ),奥田史郎,宮本和樹(森林総研四国),橋本徹,三浦覚,金子真司(森林総研)

窒素は陸上生態系の一次生産を強く規制する養分物質である。樹木では、落葉前に窒素を引き戻すことによって窒素損失を少なくしている。本研究では高知県、京都府、茨城県のヒノキ24林分を対象として、ヒノキ林の窒素利用様式と幹生産の関係を明らかにした。スリングショットで樹冠上部の生葉を採取した。リタートラップでリターフォールを採取し、落葉を分別した。これらの窒素濃度を求めた。生葉と落葉窒素濃度から、窒素引き戻し率を求めた。生葉の炭素安定同位体比を測定し、水分利用効率の指標とした。幹の現存量を林齢で割って、平均幹成長量を算出した。京都府上賀茂の3つのヒノキ二次林では6年間の現存量の変化から幹成長量を算出した。深さ0〜5cmの表層土壌のpHは、3.92〜5.51を示した。土壌pHが低かったのは、上賀茂の斜面上部や高知県の高標高地域の尾根地形の林分であった。土壌pHが低いほど、生葉と落葉の窒素濃度が低下する傾向が認められた。また、土壌pHが低いほど落葉前の窒素引き戻し率は高い傾向を示した。幹成長量は2.05〜6.09t/ha/yrであった。土壌pHが4.2以下の条件でヒノキの幹成長の低い林分が認められた。また、幹成長量は、生葉や落葉の窒素濃度が高いほど大きい傾向が認められ、その傾向は落葉窒素濃度でより顕著であった。幹成長量は、窒素引き戻し率が大きいほど小さい傾向が認められた。幹成長と炭素安定同位体比に有意な相関関係は認められなかった。以上の結果、土壌pHが低い環境では、ヒノキが吸収する窒素が少ないために幹成長が低下すると考えられた。このような環境では、ヒノキは落葉前に多くの窒素を引き戻すことによって効率的に窒素を利用した。


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