| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-311

石鎚山における標高別の炭素と窒素の動態

*中森千尋,嶋村鉄也,二宮生夫(愛媛大・農)

石鎚山は標高差が著しく、高山・亜熱帯を除く、日本の主な植生が同時にみられる場所である。ここでは複数の植生で優占する樹種や、特定の植生でのみ優占する樹種がある。この植生変化は、標高と共に変化する気温に起因すると捕らえられているが、この標高や気温の変化は森林内部の養分循環にも影響を及ぼす。本研究では、これら複数の植生で優占する樹種や単一の植生で優占する樹種が、この内部循環の変化にどのように対応・貢献しているかを明らかにするために、各植生、そして各植生で優占する樹種の有機物動態および窒素動態を調べた。

石鎚山(標高1982m)は愛媛県と高知県の県境に位置する。標高714m、1211m、1487m(順にP1、P2、P3)に0.16ha(40×40m)のプロットを設置し、リターフォール量、A0層量を測定した。また、生葉・落葉・土壌の炭素・窒素含有率を測定した。土壌については、無機態窒素濃度も測定した。

P3では土壌中の硝酸態窒素濃度が高く、土壌の窒素による制限が他と比べゆるやかであると考えられた。一方で、P1・2では窒素の落葉前回収量が多い傾向にあった。土壌中の窒素がP3に比べ乏しく、不足する窒素を樹体内に回収することで生育していると考えられた。優占するプロット数で樹種を分類すると、3つのプロットに渡り優占するジェネラリスト、2つのプロットで優占する中間種、1つのプロットでのみ優占するスペシャリストにわけられた。これらの窒素の落葉前回収量の変動幅をみると、ジェネラリストは中間種よりも変動幅が大きく、他種に比べて養分状態の変化に対する可塑性が高いことが示された。これらのことより、石鎚山における樹種の分布は気候だけでなく、それと共に変化する土壌の養分状態に対する樹種の可塑性に影響されている可能性が示唆された。


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