| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


一般講演(ポスター発表) P3-331

熱帯山地林における鳥類によるリンの運搬

*藤田素子(京大・東南ア研),宇野裕美(京大・理),北山兼弘(京大・農)

リンは一次生産を支配する要因の一つで,その供給量によって生産量や生物群集が変化することが知られている.自然条件でのリンは鉱物からの風化をはじめ降水により他所から運ばれてきたものを由来とし,重力に従って溶脱するという循環が成立している.リンが欠乏状態にある土壌をもつマレーシア・キナバル山の熱帯山地林でも,尾根から谷を通り河川へと失われていくリンを効率的に利用するために,植物は様々な戦略を用いることが知られる.いっぽう近年になって,重力に逆らい動物によってリンが運搬される事例が様々な環境で報告されている.貧栄養土壌をもつキナバル山の動物相のなかで大きなバイオマスをもつ鳥類は,景観内のリンの再循環にどの程度寄与しているのだろうか.この疑問に答えるために,鳥類の日周行動,特に採餌と排泄のプロセスに着目し,次のようなアプローチで研究を行った.まず尾根・谷において6時から18時にかけてポイントカウント法,カスミ網を用いた鳥類調査および粘着トラップ法,インターセプトトラップ法を用いた飛翔昆虫調査を行い,鳥類の日周的な移動に地形的なパターンがあるかどうかを検証した.同時に鳥類の排泄物を採集するための糞トラップおよびカスミ網を尾根・谷に設置し,採集した排泄物と餌生物(果実,節足動物)の炭素・窒素安定同位体比から,排泄物に含まれる栄養塩がどこから運搬されたものであるかを推定した.そして尾根・谷に落とされる排泄物に含まれるリンの起源と供給量を推定し,谷から尾根へ,重力に逆らったリンの運搬量を見積もった.最後に鳥類が関わったリンの再循環プロセスのもつ意義を,他の循環量と比較して考察する.


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