| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


シンポジウム S09-1

南西諸島におけるサンゴ群集構造の地理的変異

酒井一彦(琉球大・熱生研)

サンゴ群集は、高水温やオニヒトデの大量発生などが原因となり、世界的に衰退傾向にある。また今後地球温暖化が進行すれば、サンゴ礁生物の分布が高緯度域へシフトする可能性も指摘されている。南西諸島では亜熱帯から温帯にかけてサンゴ礁が発達し、緯度傾斜に沿ったサンゴ群集の変異の現状と、今後の温暖化と海洋酸性化の影響が緯度傾斜に沿ってどのように起こるかを追跡するのに適したフィールドである。このような観点から2008年夏季に、大隅諸島、奄美諸島、沖縄諸島、宮古諸島および八重山諸島で、各諸島域でサンゴ群集調査やダイビング業などに従事し、趣旨に賛同する人たちと調査チームを組織し、サンゴ群集の現地潜水調査を、共通の調査方法で実施した(WWFジャパンと日本サンゴ礁学会保全委員会の共同事業)。

サンゴの平均種数は諸島域間で有意に異なり、緯度が高いほど少ない傾向が見られ、八重山で最も多く、宮古、沖縄および奄美で中間、大隅で最も少なかった。サンゴ被度も諸島域間で有意に異なり、緯度が高いほど少ない傾向にあったが、沖縄で最も低かった。サンゴ科レベルでの相対値では、低緯度でミドリイシ科の被度が高く、高緯度でキクメイシ科が高かったが、沖縄ではミドリイシ科の相対被度が隣接する諸島域よりも有意に低かった。ミドリイシ科の相対被度が低かったことは、沖縄では本来ミドリイシ科が優占すべきサンゴ群集が、回復していないことを意味すると思われる。これは沖縄では人口密度が高く、陸域の人間活動の影響が、サンゴ群集に負の影響を及ぼしている可能性を示唆する。今後沖縄と他の諸島域でのサンゴ群集動態を比較することで、地球および地域規模での環境変化の相互作用をフィールドで検証できる可能性がある。また緯度傾斜をより深く理解するためには、集団遺伝学や分類学との連携が不可欠であろう。


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