| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T04-2

湖沼メソコスムにおける生物群集の体サイズ構造とメタボリズム

*福森 香代子,酒井 陽一郎,西松 聖乃,陀安 一郎,奥田 昇(京大・生態研)

一般に、単細胞生物から恒温動物に至る全ての生物の代謝速度は、体サイズの3/4乗に比例して増加する。これは生物界一般に普遍的なスケーリング則(アロメトリー)として知られている。また、単位体重あたりの代謝速度は体サイズの−1/4乗に比例して減少する。従って、相対的に小さな生物で構成される群集ほど、生態系全体の代謝速度(生態系メタボリズム)が大きくなることが予測される。この生物群集の体サイズ構造と生態系メタボリズムのスケーリング則を検証することを目的として、琵琶湖の生物群集を内包したメソコスム実験を実施した。特に、高次捕食者である魚類の摂餌機能多様性(魚類不在、プランクトン食魚、ベントス食魚、両種混生の4実験区)を操作することにより、プランクトン群集の体サイズ構造と生態系メタボリズムに及ぼすトップダウン栄養カスケード効果に焦点を当てた。2ヶ月に亘る実験の結果、プランクトン食魚区ではプランクトン群集が小型化したが、ベントス食魚区ではそのような傾向は認められなかった。また、両種混成区では、プランクトン食魚区とベントス食魚区の中間的な体サイズ構造を示した。以上より、魚の摂餌機能多様性はプランクトン群集の体サイズ構造に栄養カスケード効果をもたらすと結論された。しかし、この栄養カスケードは操作区間のメタボリズムの明瞭な差を引き起こさなかった。生態系メタボリズムはプランクトン群集の体サイズ構造に依存しておらず、懸濁態リン濃度と強い相関が認められた。個体のメタボリズムは慣習的に好適な生育環境下で測定されることが多い。しかし、群集レベルのメタボリズムは個体レベルのメタボリズムの単純な総和とならず、律速資源に強く制限されることが本研究により実証された。メタボリズム理論を生物群集や生態系に適用するにあたり、生態化学量論を導入することの重要性があらためて示唆された。


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