| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T04-3

水系ネットワークと流域代謝速度のアロメトリー

*岩田 智也,廣瀬 正也,伊在 丸洵(山梨大・工),芳賀 弘和(鳥取 大・農),高津 文人(国環研)

一般に、ボディサイズと代謝速度の間には、アロメトリー(非相似)関係が成立する.例えば、微生物から大型哺乳類にいたる様々な大きさの生物で、体重の3/4乗に比例して代謝速度が増加することが知られている.この代謝速度のべき乗則は、血管のようにフラクタル様のネットワークで資源を分配する系でみられる普遍的なパターンであるらしい。すなわち、資源の輸送・分配ネットワークの形状が、系全体の代謝速度を決めているものと考えられる。

水系網は、枝分かれした各支流が、流域からさまざまな陸上有機物を集めながら下流へと輸送するネットワーク・システムだ。また、水系は河川生物の代謝により、活発に陸上有機物を分解している。つまり、水系全体の陸上有機物を基質とする呼吸(代謝)速度は、水系網の大きさとアロメトリー関係にある可能性がある。そこで本研究は、流域スケールにおける陸上有機物の代謝速度と水系サイズとの間のスケーリング則を探索する目的で、富士川水系全域を対象とした野外観測を2年にわたって実施した。

調査の結果、水系全体における陸上有機物の代謝速度は、一定のべき乗則で流域面積とともに変化することを明らかにした。また、その指数は1を上回り、河川内における陸上有機物の分解速度は、大きな流域ほど相対的に高かった。これは、大流域ほど相対的に水路面積が大きくなり、河川生物の代謝の場が大きく広がることが主な原因と考えられた。本研究により、個体や群集レベルと同様に、景観レベルにおいてもシステムサイズと代謝速度の間にべき乗則が成り立つことを明らかにした。また、より大河川の水系ネットワークを改変した場合に、河川を通じた陸から海洋への炭素輸送が変化する可能性が相対的に高くなるものと考えられた。


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