| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T24-5

日本産シダのDNAバーコーディング: 配偶体フロラ解析への応用

*海老原淳(科博・植物)櫻井裕布美,山岡麻美,水上直子(日本女子大・理)

シダ植物の生活環は、我々が普通に目にする大型の胞子体(2n)と数mmの配偶体(n)との世代交代によって構成されている。胞子体・配偶体双方が独立生活を行う点が他の陸上植物とは異なるが、実際の研究は大半が胞子体を用いて行われたものであり、とりわけ野生配偶体の実態については情報が皆無であった。野生配偶体の研究における最大の障害は、単純な形態に起因する同定の困難さ(特徴的なものであってもせいぜい属レベル)であったが、DNAバーコーディング技術は野生配偶体の同定を可能にした。

発表者らは日本産のシダ植物種数の約95%にあたる680種のDNAコレクション(証拠標本を伴ったもの)を構築しており、それらのほぼ全てにおいて葉緑体rbcL遺伝子(約1200bp)の塩基配列を決定している。野外で採集した未同定の配偶体において同遺伝子の一部(約600bp)の配列を決定することで、特定の属(主に無配生殖種を含む属)の配偶体を除いてほぼ種レベルまで同定された。一方で無配生殖種のように一分類群(とされているもの)が単一の起源を持たない場合は、たとえ複数の遺伝子領域の情報を用いたとしても、確実な同定は困難であることが明確になった。

シダ植物では生活環の特性上、同一種の胞子体-配偶体間で分布が一致しない可能性が指摘されている。日本産種では、胞子体の分布については既に網羅的な情報が存在するため、配偶体の分布の把握によって、両者の比較が可能となる。ただし、特定種の配偶体分布を解析することは現実的でないため、地点毎の「配偶体フロラ」の調査データを蓄積させる必要がある。予備的な「配偶体フロラ」調査の結果は、特に非心臓型配偶体を形成する種において、胞子体を伴わずに独立して配偶体が生育する例が多いことを示唆している。


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