| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第57回全国大会 (2010年3月,東京) 講演要旨


企画集会 T28-2

第四紀の気候変動がツキノワグマの遺伝構造に与えた影響

*大西尚樹(森林総研・東北),鵜野レイナ(慶大・先端生命),石橋靖幸(森林総研・北海道),玉手英利(山形大・理),大井徹(森林総研)

ツキノワグマ(Ursus thibetanus)は東アジアの広い地域に生息しており,日本では本州と四国で個体群が維持されている.第四紀の気候変動がツキノワグマの遺伝構造に与えた影響を明らかにするために、国内のサンプルおよび大陸のデータを用いて系統地理学的解析を行った。中国地方を除く本州各地および四国から収集した筋肉片、血液、体毛、糞など計589サンプルを用いた。中国地方および近畿地方では先行研究から108個体分のデータを引用した。

ミトコンドリアDNA control領域約700bpの塩基配列を決定した結果、57ハプロタイプが検出された。ベイズ推定による系統解析の結果、これらは3つの大きなクラスターに分けられた。各クラスターに属するハプロタイプの分布域は琵琶湖〜東北(東クラスター)、琵琶湖〜中国地方(西クラスター)、紀伊半島および四国(南クラスター)と明瞭に分かれた。東日本クラスターの41ハプロタイプのうち、39ハプロタイプは局所的に分布していた。北日本の個体群では、中部地域に比べ遺伝的多様性が低かった。西日本と南日本クラスターのハプロタイプは各個体群に特異的に観察された。遺伝的多様性は東日本に比べ高くはなかった。

最終氷期間中に北部地域では個体群が小さくなり、遺伝的浮動により多様性が減少し、一方、中部地域南部では比較的大きな個体群が維持され、現在に至っていると推測された。西日本と南日本では気候変動による影響は小さく、地域的な構造化が進んだものの、近年の孤立化の影響により遺伝的多様性が減少したと考えられる。


日本生態学会