| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-05

天ヶ瀬ダム放流による冠水が宇治川河川敷の地表性甲虫群集に与える影響

*藤澤貴弘,石井 実(大阪府大院・生環・昆虫)

河川敷には,さまざまな環境が含まれ,砂地や泥地,砂礫,岩礫で覆われた環境もあれば,ヨシ原などの高茎草地,低茎草地,河辺林などの植生の発達した環境もある.しかし,多くの河川では洪水対策のための大規模な改修や,護岸整備のために河川敷のもつ本来の生態系は大きく変化している.宇治川は琵琶湖に源を発し,京都府宇治市域を流れる淀川の上流部分である.宇治川では淀川の治水対策として天ケ瀬ダムの建設や,河道の拡幅や直線化,高水敷の設置など多くの人為的改変が行われてきた.このため河川敷の大部分で冠水の頻度が減少,乾燥化が進み,多くの地点でヨシなどの高茎草地がツル植物に覆われている.しかし,天ヶ瀬ダム付近の河川敷は、ダムの放流量が増加した際に一部が冠水する比較的湿った環境となっている.

地表性甲虫類はさまざまな陸上生態系に分布し,種ごとに異なる生息場所選好性をもつ.地表性甲虫類は,河川の水辺からの位置関係によって種構成が変化することが知られるなど(富樫,1986など),河川敷の環境変化を反映する指標として優れていると考えられる.

本研究では,地表性甲虫類のうちオサムシ科とホソクビゴミムシ科を対象とし,京都・大阪府境付近の三川合流部2地点(左岸,右岸),及びそれより上流域の京阪鉄橋付近(左岸),淀大橋付近(右岸),向島ヨシ原2地点(左岸),観月橋付近(左岸),桃山(右岸),京滋バイパス付近(右岸)の河川敷に計9地点を設定,2010年4月~12月に合計18回(設置期間は1週間),無餌ピットフォールトラップ法による捕獲調査を行った.

この調査の結果,全地点から58種7193個体を捕獲した.調査地全体の上位5種はヤコンオサムシ,オオクロツヤヒラタゴミムシ,アオゴミムシ,オオゴモクムシ,ミイデラゴミムシであった.得られた結果から,天ヶ瀬ダムの放流が宇治川河川敷の地表性甲虫群集の多様性に与える影響について考察する.


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