| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


一般講演(口頭発表) D2-06

スイセンハナアブ属の遺伝的多様性―外来種と在来種の比較―

*須島充昭,伊藤元己(東大・総合文化)

スイセンハナアブ属Merodonは,幼虫がヒガンバナ科やユリ科の球根食に適応して放散したグループであり,世界で約160種が知られている.多くの種は地中海沿岸域からトルコにかけて分布しており,アジアに自然分布している種は少ない.日本には唯一カワムラモモブトハナアブM. kawamuraiが在来種として本州以西に分布しており(希少種),また近年ヨーロッパ原産の外来種スイセンハナアブM. equestrisが東日本で個体数を増している.本研究ではまず両種のDNA barcode(以下バーコード)を用いて遺伝的多様性を比較した.カワムラモモブトハナアブは埼玉県内の調査地点で採集し,12個体のバーコードを決定したが,その中に3つのハプロタイプが含まれていた.一方スイセンハナアブは横浜,東京,仙台の各調査地点から7個体ずつ,計21個体のバーコードを決定したが,全て同じハプロタイプであった.外来生物の遺伝的多様性は侵入回数などの影響を強く受けるが,一般には在来生物より低いといわれており,本研究でも類似の傾向が示唆された.

本研究では更に,以上の日本産スイセンハナアブ属2種33個体分のバーコードと,GenBankから引用可能なヨーロッパ産スイセンハナアブ属17種34個体分のバーコードを合わせ最尤法で系統解析を行った.その結果日本産の2種(在来種と外来種)は異なるクラスターに属し,同属であるが近縁種とはいえない.そのため,現在両種は関東では同所的な発生も見られるが,交雑する可能性は低いと思われる.一方在来種の幼虫の主要な餌資源はヒガンバナ科(キツネノカミソリやヒガンバナ)の球根であると推測されており(玉木,1991),これは外来種の幼虫も利用することから(演者らが昨年度の大会で発表),両種が餌資源をめぐり競合する可能性は高い.


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