| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第58回全国大会 (2011年3月,札幌) 講演要旨


企画集会 T22-5

植生遷移過程における食物網炭素起源の変化

原口岳(京大・生態研セ)

有機物を介した生態系内のエネルギーフラックスは食物網動態を制御している重要な要因であり、結果として生物群集を規定している。食物網のエネルギー起源は究極的には光合成で生産された有機物である。消費者がそれらを取り込む経路は大きく生食連鎖と腐食連鎖に分類され、地下部に蓄積したデトリタスに起源する腐食連鎖は、光合成生産されてから消費者に取込まれるまでに時間的遅れを伴う点に特徴がある。そこで、「体を構成する炭素の光合成生産からの経過時間 (diet age) 」という時間軸は、消費者が利用するエサ資源に応じた生態系での炭素滞留時間を示し、食物網構造を明らかにするツールとなる。

本研究では、生物体の14C分析によってdiet age尺度を陸域生態系に導入し、時系列的な調査地設定によって、植生の二次遷移過程における植物から高次消費者に至る炭素のフラックスを明らかにした。特に、優占する捕食者の一つとして樹上性クモに着目し、クモを頂点とする食物網において、栄養段階間の炭素の転送が遷移過程でどのように変化するのかに着目して研究を行った。

その結果、低木層において地下部腐食連鎖系と地上部生食連鎖系がクモによる捕食を介して連結しており、樹上の捕食者にも地下部腐食連鎖系での滞留を経た有機態炭素が、土壌起源の双翅目を介して供給されていることが明らかになった。更に、同一林齢内においてもクモ類は種によって大きく異なるdiet ageを示し、そうしたクモのdiet ageは捕食様式によって強く規定されていることが示された。一方、クモ群集は植生遷移に伴って変化しており、クモ群集を頂点とする食物網の変化を明らかにする上で、林齢によって捕食様式の異なるクモ類が優占種になる事が重要な要素であることが考えられた。本発表では植生遷移に伴い、クモ群集に供給される腐食連鎖由来のエサ資源の寄与率がどのように変化するのかについて、クモのバイオマスベースで論じる。


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