| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) B1-11 (Oral presentation)

森林限界の形成機構: 乗鞍岳における標高傾度にそった森林の構造と動態からの解析

高橋耕一(信州大・理)

【目的】地球温暖化によって高木限界がより高い標高に移動すると考えられている.中部山岳の乗鞍岳(標高3026m)の亜高山帯(1600~2500m)の上部ではオオシラビソやダケカンバが優占している.標高2500mが高木限界であり,それより高い標高では矮性低木のハイマツが山頂付近まで分布している.この研究では,高木限界の形成機構を明らかにすることを目的とした.

【方法】高木限界付近(2350~2600m)に10x10mのプロットを125個設置した.6年間の幹の肥大成長をオオシラビソ,ダケカンバ,ハイマツについて調べた.この期間中の死亡率と樹冠の物理的損傷の有無は,個体数が多く,損傷の有無が判別可能なオオシラビソでのみ調べた.

【結果】オオシラビソのプロット内の個体密度,最大樹高と最大幹直径は標高とともに減少した.ダケカンバの最大樹高は標高とともに減少したが,個体密度や最大幹直径は減少しなかった.一方,ハイマツの個体密度は高木限界付近から急激に増加した.ハイマツと高木種(オオシラビソ,ダケカンバ)の個体密度には強い負の相関が見られ,種間競争が生じていることが示唆された.オオシラビソとダケカンバの幹直径の成長率は標高とともに減少していなかったため,高木限界でも2種は成長できることが示された.物理的損傷を受けていたオオシラビソの割合は標高とともに増加した.この傾向は特に大きな個体サイズで顕著であった.また,より大きなオオシラビソほど,より高い標高で死亡率が高かった.高木限界付近では,高木種は物理的損傷のために樹高を増加させることができず,また生存もできないのだろう.

【まとめ】この研究では,低温による成長阻害というよりも強い風雪による物理的損傷によって高木限界の標高が大きく影響されていることを示唆した.したがって,もしこのような成長や死亡の特性が長期間,変化がないとすれば,温暖化の状態でも高木限界はより高い標高へは移動しないだろう.


日本生態学会