| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-01 (Oral presentation)

サバ州における焼畑の拡大過程と、それが森林減少に与える影響

*木村公宣,山田俊弘,奥田敏統

近年,森林減少・劣化が著しい熱帯域において国立公園や森林保護区の設定が森林保全へ効果をもたらすものとして注目を集めている。とはいえ,保護区設定による森林の囲い込みは,森林伐採活動が保護区境界外へ飛び火する「リーケージ」を助長するだけで、広域的には保護区の設定が森林保全に必ずしも貢献していない可能性もある(Ewers 2008)。とはいえ保護区設定による周囲の森林減少・劣化への影響についての研究事例はきわめて少ない(Sunderlin et al. 2005)。そこで、本研究では、保護区の設立が周囲の森林が農地に転用されるリスクへ及ぼす影響と保護区と周辺地域の現存量の維持にどの程度貢献しているのか明らかにすることを試みた。調査は、東マレーシア・サバ州北部に設立されたTenompok森林保護区とその周囲約10km四方の範囲で行い、地域の土地被覆を保護区設立前である1973年から2010年までの衛星画像を用いて観測した。調査地内の任意の30m平方の区画の開発リスク(森林が農地もしくは焼畑に転用されるリスク)を、2時点の画像からその区画の開発の在非を目的変量とし、地形や集落、保護区からの距離等の属性を説明変数としたロジスティック回帰分析を用いて定量した。またこの地域の現存量は、先行研究により「二次遷移1年で6t/ha,二次遷移3年で約15t/ha,二次遷移10年で約35t/ha(Ohtsuka 2001)」という値が求められている。これを基準値として適用し、年代間で現存量の比較を行った。その結果、保護区内では、天然林が保たれていることが分かった。また、保護区周辺の森林が農地に転用されるリスクは、保護区設定によって短期的(~1996年)には抑制することができたが、長期的には設立前より増加し、2010年までに保護区以外の森林はほとんどなくなった。以上より森林の保全には、国立公園や森林保護区の設立だけでは十分ではないことが示唆された。


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