| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-03 (Oral presentation)

放牧跡地でのブナ林再生事業における土壌耕起の有効性~秋田県森吉山の事例より~

*金丸孔明,蒔田明史,佐藤孝(秋田県大 生物資源)

秋田県森吉山麓には、かつて樹高30 mに達する雄大なブナ林が広がっていた。しかし、1974~1988年の間に約500 haのブナ林が伐採され放牧地が造成された。近年、失われた自然再生活動への社会的気運が全国で高まり、森吉山麓高原でも自然再生協議会が設置され、2006年よりクマゲラの住む森を目指したブナ林再生活動が行われている。しかし、放牧地造成の際に、表土が大量に失われた可能性がある草地へのブナ林再生手法は十分に確立されていない。

森吉山麓高原では、“島”と呼ばれる30 m四方の植栽区を点在させる手法でブナ林再生を目指しているが、土壌改良のため、島全体を耕起・砕土し、土壌改良材を鋤き込む「全面耕起法」と直径50 cm程の植穴を掘り、完熟堆肥と共に植林を行う「植穴植栽法」が主に行われている。

本研究では、これらの施業法の土壌改良効果の検証を目的とし、主に土壌物理性に着目した。具体的には、放牧跡地を対照区とし(1)対照区と伐採されずに残っているブナ林土壌の比較により放牧跡地の土壌条件を明らかにし、次に(2)対照区と「全面耕起法」及び「植穴植栽法」の施業地との比較により、施業効果を推定した。

測定項目は、長谷川式土壌貫入計を用いた土壌硬度、土壌表層部と下層部(8 cm以下)での三相分布等で、さらにブナ林と対照区では土壌断面調査も行った。調査対象は2008年ブナ植栽区で、2011年に測定した。

その結果、対照区はブナ林土壌に比べて、表層が20 cm程度失われていると推察され、土壌硬度は有意に高く孔隙率は小さかった。一方、植穴植栽区は有意に土壌硬度や孔隙率の改善効果が見られ、全面耕起区でもやや改善傾向はみられたが、有意な差ではなかった。

今回の結果から、草地造成で悪化した土壌物理性への施業による改善効果の可能性は示唆された。しかし、植栽木の成長や植栽木以外の植生状況等も含め、最適な施業法にはさらなる検討が必要であろう。


日本生態学会