| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


一般講演(口頭発表) I1-04 (Oral presentation)

安倍川河床における2011年の出水後の実生の分布

*倉本宣・真野佑亮(明治大・農)・芦澤和也・岡田久子(明治大・研究知財)

安倍川は静岡県と山梨県の県境の大谷嶺から駿河湾に流れる幹線流路延長51kmの急流河川である。礫が多く、河口まで礫が目立つ河床には、カワラハハコ、カワラヨモギ、カワラケツメイなどの礫河原の植物が豊富に生育している。中流から下流にかけては、網状流路がめだつ。2011年9月に牛妻水位観測点(河口から17km)における既往最高水位(2.95m)に匹敵する出水が2回発生した(9月4日:2.68m、9月21日:2.90m)。この2回の出水は安倍川の河床植生、特に低水路の植生に大きな影響を与え、出水後は無植生の礫河原が広がっている。本研究は、この安倍川の礫河原の植生の回復の方向を予測し、貴重な礫河原の植生を保全することを目的として行うものである。

調査は低水路の右岸または左岸に5×5mの方形区を連続して水際から高水敷の縁まで設置し、方形区内の植物と実生を記録した。同時に方形区の地形を測量した。調査地は上流から日影沢(河口からの距離約37km)、中平(同26km)、油山(同17km)、秋山町(同9km)の4ヶ所で2011年12月に行った。

調査結果のうち、方形区当たりの平均芽生え数は、日影沢で0個体、中平で0.1個体、油山2.0個体、秋山町4.6個体であった。秋山町ではシナダレスズメガヤの割合が80%を占めており、植生の回復過程で、外来種が優占する危険性がうかがわれた。

安倍川の流路は最上流部から重機によって改変されており、4つの調査地にはすべて重機の通路として平坦化された場所が含まれていた。この人為的な改変が実生の定着に悪影響を与えている可能性があるので、安倍川河川敷を水や砂礫を流下させる場としてとらえるだけでなく、貴重な生態系を保全する場としても位置付ける必要性がある。


日本生態学会