| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第59回全国大会 (2012年3月,大津) 講演要旨
ESJ59/EAFES5 Abstract


企画集会 T10-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

水産資源管理における意思決定支援~小型浮魚とマグロの管理を例に~

黒田啓行・大下誠二・田中寛繁・安田十也(西海区水産研究所)・高橋紀夫(国際水産資源研究所)

国連海洋法条約によると、沿岸国は200海里内の水産資源を排他的に利用できる代わりに、最良の科学的データに基づき、獲ってもよい漁獲量の上限(TAC)を定めることで、自国の水産資源を管理しなければならない。日本ではマアジ、マイワシなどの小型浮魚類など7魚種がTAC管理の対象となっている。TAC決定までの流れは、(1)漁業情報や科学調査データなどを収集する、(2)データと科学的知見に基づき、資源評価を行う、(3)現状の資源状態と管理基準に基づき、生物学的許容漁獲量(ABC)を算出する、(4)社会経済学的要因を考慮した上で、ABCに基づきTACを決定する。科学者は主に(1)から(3)の段階に関与する。日本の場合、一部の資源を除いて、TACに関する合意形成は比較的スムーズである。しかし、資源状態などに関わる不確実性への配慮と対応が十分でないなどの懸念もある。

一方、複数の国により漁獲されるまぐろ類の管理でも、同様の過程を経て、各地域の国際機関にて、TACが決定されている。ところが、関係国間の利害対立が激しい場合など、TACが合意されないこともある。そこで、みなみまぐろ保存委員会(CCSBT)では、利用可能なデータからTACを決めるルールである「管理方式」の運用が2011年より開始された。国際的な水産資源管理では世界初の例である。管理方式では、膨大なシミュレーションにより、不確実性への頑健性が確認されており、資源状態に応じた順応的な管理が期待できる。また、TACの決定過程に予め合意しているため、TAC決定の透明性と一貫性が確保され、迅速な合意形成が可能となる。ただし、シミュレーションの妥当性や、想定外の出来事への対応などの課題もある。

本講演ではこれらの事例を比較することで、資源管理の意思決定における鍵となる要因を浮かび上がらせると同時に、合意形成における科学者の本来の役割と現状について整理したい。


日本生態学会