| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(口頭発表) C3-30 (Oral presentation)

移動分散を考慮した地域スケールでのニホンジカの個体群動態の推定

*岸本康誉,藤木大介,坂田宏志(兵庫県大)

近年、ニホンジカの分布域の拡大と、それに伴う農業や自然植生の影響の拡大が多くの地域で報告されている。このような状況のもと、被害の軽減や予防を目的としてニホンジカの捕獲計画を策定するためには、個体群レベルでの本種の移動分散を定量化することが重要である。そこで、本研究では、兵庫県で1999年から2011年までの13年間にわたり収集された捕獲と密度指標に関するデータを用いて地域スケール間の移動分散を考慮した個体群動態を推定した。捕獲データとしては、狩猟と有害による捕獲数を用い、密度指標については、出猟時の1日あたりの平均目撃数である目撃効率と、尾根線上の1kmあたりの平均糞塊数である糞塊密度を用いた。それぞれ、狩猟メッシュや市区町単位で得られたデータを、10km×10kmメッシュ単位で集計し解析に用いた。解析にあたっては、地域スケールでの個体群動態を推定する状態空間モデルを基本として、周囲8メッシュとの密度差により移動分散が起こることを仮定した移動に関する拡散係数を組み込んだモデルを構築した。さらに、景観要素による移動の違いを考慮するために、移動については、隣接メッシュ間の森林の接延長に比例すると仮定した。また、同じデータセットを用いて、移動を考慮しないモデルを構築し、移動の有無による増加率や個体数などの他の推定値の違いを比較した。

推定の結果、移動ありと移動なしのいずれのモデルにおいても、十分な収束が得られた。しかし、推定値は、モデル間で異なり、移動を含めたモデルでは、移動を含めないモデルより、増加率が高い一方で、個体数が低くなった。これらの結果を踏まえ、本講演では、ニホンジカの個体群管理を進めるにあたっての移動を考慮した推定と捕獲計画の設計の重要性について議論する。


日本生態学会