| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-146 (Poster presentation)

種子散布におけるホンドタヌキのため糞場の役割

*大石圭太(鹿大院連農),熊原典之(鹿大農),畑 邦彦(鹿大農),曽根晃一(鹿大農)

ホンドタヌキとニホンアナグマは、特定の場所に糞を排泄して「ため糞場」を形成する。一つのため糞場を複数の個体が利用することによって、周辺の個体間でコミュニケーションを図っていると考えられている。ため糞場では、糞に含まれた大量の種子が発芽し、実生群が形成される場合が多い。そのため、彼らは種子の二次散布者となりうるが、実生が定着する可能性は、ため糞場が形成された環境に左右される。そこで、25haの森林で彼らのため糞場の捜索及びその立地条件と植生調査を行った。また、一ヶ所に大量の糞と種子が存在するため糞場は、糞虫や野ネズミなどの種子食性動物の格好の餌場となり、野ネズミにより種子がより遠方に運搬される「三次分散」の可能性も期待される。ただし、ネズミは天敵であるタヌキやアナグマの糞のにおいを避けることが観察されている。そこで、ため糞場の餌資源としての利用可能性を検討するため、種子を含んだ新鮮なタヌキの糞を人工のため糞場に設置し、糞の分解過程と訪問した動物、種子の消失を目視および赤外線センサー付きカメラで観察した。

その結果、ため糞場は、計31ヶ所確認され、立木密度が低く、林床の光環境が悪くなく、実生が定着しやすい尾根部に多かった。そのため、タヌキとアナグマは、種子の二次散布者となりうることが明らかとなった。また、人工のため糞場への野ネズミの訪問と種子利用のピークは糞虫による糞の分解が進み、糞の形が完全に崩れた後であったことから、糞虫による糞の分解が野ネズミによる種子利用を促していることが明らかとなった。しかし、調査のセッションによっては、糞が完全に崩れる前から野ネズミは少なからず訪問しており、野ネズミに対する糞のにおいによる忌避効果は完全なものではなく、むしろ物理的効果によって種子の利用を妨げると考えられた。


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