| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-065 (Poster presentation)

栄養塩の吸収時期が冬緑性草本ヒガンバナの光合成特性に与える効果

*西谷里美(首都大・生命科学),石田厚(京大生態研センター),高市真一(日本医大・生物),中村敏枝(首都大・生命科学),可知直毅(首都大・生命科学)

冬緑性草本であるヒガンバナは,展葉期(関東地方では10月から翌年5月)のみならず,葉の無い夏期においても栄養塩の吸収能力を持つことが明らかになっている。また,栄養塩の吸収時期が個体の成長に影響することも既に報告した。成長は,物質生産をになう葉の光合成能力と,葉への資源配分に依存する。本発表では,栄養塩の吸収時期が葉の光合成能力に与える効果について報告する。

4月上旬の個体重を指標としてサイズをそろえたヒガンバナを,施肥の時期を変えた4条件下で栽培した; 条件S(夏施肥:6月中旬から6.5週間施肥),条件A(秋施肥:10月上旬から6.5週間施肥),条件SA(夏秋施肥),条件C(無施肥)。植物を植えたポットは,雨天時以外は屋外(川崎市)に置き,必要に応じて潅水した。12月中旬に光合成速度を,また,1月上旬にクロロフィル蛍光の測定を行った後,葉を採取し窒素と色素(クロロフィル・カロテノイド)を定量した。

葉面積あたりの窒素量,色素量は,いずれも秋に施肥を受けた個体(条件AとSA)で高く,葉面積あたりの光合成速度も同様であった。光化学系(PS)IIの最大量子収率(Fv/Fm)には,条件間で有意差は認められなかったが,強光下での量子収率(ΦPSII)は,秋に施肥を受けた個体で高く,特に条件Aでは,夜間に凍結した葉においてさえも高い値が維持された。夏の栄養塩吸収は,葉への資源分配の増加を介して成長に正の効果をもつことが示唆されているが,一方で,秋の栄養塩吸収は,葉の光合成能力を高め,特に,厳冬期の低温による傷害を回避する上で有効であると考えられた。


日本生態学会