| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-073 (Poster presentation)

葉の構造と気孔を介したガス交換メカニズムの実験的・理論的解明

*澤上航一郎,舘野正樹 (東大・院・理・日光植物園)

陸上高等植物が成長するには、葉の気孔を介してガス交換を行う必要がある。つまり、成長に必要な二酸化炭素を取り込むと同時に、貴重な水の放出を必要とする。植物が気孔を介したガス交換により、いかに効率良くガス交換を行なっているかを知るには、ガス交換の際の葉内の二酸化炭素・水蒸気環境を知る必要があるが、現在のところ、それらを直接的に測定する方法は存在しない。本研究では、ツユクサとキリンソウを用い、表皮を取り除いた状態でガス交換速度を測定した。ツユクサの葉の高二酸化炭素濃度下での光合成速度を無傷葉と剥皮葉で比較すると、表側剥皮で99%、裏側剥皮で91%と僅かに剥皮葉の光合成速度が低かった。大気濃度での比較では、ツユクサの表側剥皮で108%、裏側剥皮で99%、キリンソウの裏側剥皮で90%であった。蒸散速度の変化を調べると、ツユクサの表側剥皮で262%、裏側剥皮で199%、キリンソウの裏側剥皮で246%であった。光合成速度が殆ど変化しなかったのに対して、蒸散速度は大きく上昇した。では、葉肉細胞からの蒸散速度は大きいのだろうか? 葉肉蒸散速度と濾紙からの水の蒸発速度を比較すると、ツユクサで67%、キリンソウで94%であり、葉肉蒸散速度は水面からの蒸発速度よりも低いことが明らかとなった。ツユクサとキリンソウの違いは、葉肉組織の厚さによるものと考えられる。剥皮によるガス交換速度の変化は、光合成中、葉内に十分な二酸化炭素が行き渡っていることを示す一方、葉内の水蒸気濃度は植物の生態と葉の構造によって異なっているかもしれない。実験結果と同時に、これらの状態を説明する理論的モデルも示す。


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