| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-078 (Poster presentation)

木部が陰圧下にあっても,再充填中の道管内で陽圧を維持するメカニズム

*大條弘貴,種子田春彦,寺島一郎(東大・院・理)

水ストレス下にある植物の茎では高い陰圧が道管液にかかる.このとき,木部にある気体が,道管表面にある壁孔を通して内部へ引き込まれ道管内腔を塞ぐことで水の輸送を妨げる.これを空洞現象と呼ぶ.空洞化した道管の水輸送能力回復には,道管内に入り込んだ気泡に陽圧をかけて周囲の水に溶かし込む必要がある.しかし近年,木部に陰圧がかかった状況でも,空洞化した道管へ水が再充填されることが多くの植物で確認されている.空洞化した道管への水の再充填が陰圧下で起こることは,一見すると物理的に矛盾しているように感じる.隣接する道管の水には陰圧がかかっているにも関わらず,再充填中の道管内の水と気体には陽圧がかかっている状況下では,再充填中の道管内の水が,周囲の陰圧下にある道管へ引き込まれてしまい,結果として再充填は決して完成しないように思える.このことに関して現在,再充填中の道管の壁孔内に気泡が入り込んだ構造(pit valve構造)により,道管内の水と陰圧がかかっている周囲の水とのつながりが断ち切られるという説が提唱されている.理論的には,再充填中の道管液に掛かる圧力がある程度高くても,壁孔の構造と壁の親水性から得られる表面張力により,壁孔内の気泡には陽圧がかからず,気泡は安定して存在できるはずである.

発表者はこれまでに,落葉広葉樹ヤマグワを用いて,再充填中の道管液に掛かる圧力がある程度高くても,pit valve構造が維持されるという結果を実測から得ている.本研究では,陰圧下での再充填現象が確認されているゲッケイジュを用いた実験から,再充填中の道管液に陽圧がかかることを確認した.このことに加え,ゲッケイジュにおいてもpit valve構造が安定して存在できる再充填中の道管液に掛かる圧力を測定することで,再充填過程を通してpit valve構造が維持されるかを検証する予定である.


日本生態学会