| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第60回全国大会 (2013年3月,静岡) 講演要旨
ESJ60 Abstract


シンポジウム S09-6 (Lecture in Symposium/Workshop)

6.田んぼで洪水は防げるか‐田んぼダムの可能性と技術的課題‐

吉川夏樹(新潟大・農学部)

近年、集中豪雨発生の増加によって、全国で大規模な水害が頻発しており、今後、物的・人的被害による経済的損失の増加が予想される。河川改修や治水施設の増強等の対応策が継続的に実施されているものの、短期内での課題解決は財政的・技術的に困難である。こうした状況を踏まえ、新潟県では豪雨による洪水の緩和対策として、「田んぼダム」の取組が行われている。田んぼダムとは、水田耕区の排水孔を装置化して落水量を抑制することによって、水田の貯留機能を高め、豪雨時における水田地帯からの流出量のピークを平滑化し、下流域の洪水被害を緩和するものである。水田の洪水調節機能を人為的に操作できる点に基本的特徴があり、これまで多面的機能の一つとして評価されてきた水田の洪水調節機能(志村、1982;早瀬、1994)とは異なる。

土地利用、排水方法、地形勾配等の流域特性によって異なるが、筆者らの試算によると、概ね30%以上が水田の流域で効果が認められ、取組水田10a当りの年間洪水被害軽減期待額は1,000円〜17,000円にのぼる。2011年7月末に発生した新潟福島豪雨災害では、新潟市白根地区(流域面積7,460ha、取組面積2,900ha)で大きな効果が発現され、約12億円の被害軽減をもたらした。

既存の水田を洪水緩和の装置として利用する田んぼダムは、環境負荷が小さく、即効性の高い対策であるが、多数の農家の協力が不可欠である。農家の参画を促す仕組みの整備が強く求められている。


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