| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-04 (Oral presentation)

テナガツノヤドカリが対捕食者反応としてオスの二次的性形質を縮小する?

井上明子,深野祥平,*古賀庸憲(和歌山大・教育),吉野健児(佐賀大・低湿地沿岸)

メスを巡るオス間競争において有利となる、成熟したオスのみが持つ形質は二次的性形質と呼ばれる。しかし、その形質の所有はコストを伴う。捕食リスクの高い環境下でオスの二次的性形質が目立たなくなることは、集団レベルでは幾つかの種において報告されているが、個体レベルでの報告は稀である。我々はテナガツノヤドカリの大形オスが、脱皮により二次的性形質を縮小することを報告する。本種においては大形オスのみ交尾前のメスをガードし、大形オスは小形オスより武器となるハサミ脚が相対的に長い(性内二型)。我々は先行研究で、大形オス間でもより鉗長の大きい個体がメスを巡る競争に勝利することを明らかにした。また、一昨年の発表で繁殖期ピークの夏季に鉗脚が相対的に大きい大形オスが消失し、成長によりその後出現する大形オスは鉗脚が小さいこと、昨年の発表でイシガニやタイワンガザミによるヤドカリの捕食量が夏季以降増大することを報告した。そこで今回、季節的な捕食圧の増大が本種大形オスの鉗脚サイズに影響しているかを実験により検証した。本種の大形オス・小形オス・メスを、捕食者・本種の死体・コントロールの水槽に入れ、夏から秋にかけて3ヶ月飼育し、個体追跡して脱皮による体サイズ変化量を測定した。その結果、実験処理による影響は無く、大形オスが小形オスやメスより有意に鉗長を縮小していた。これは捕食リスクの増大は季節的に起こる予測可能な変化なので、自然淘汰が働き遺伝的に固定されたためと考えられる。即ち、相対的に大きな鉗長を持つ大形オスのみが、環境の変化に伴い脱皮によりハサミを小さくしていた。目立つオスが、脱皮により個体レベルで二次的性形質を縮小することは、演者らが知る限り世界初の報告となる。


日本生態学会