| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


一般講演(口頭発表) E2-12 (Oral presentation)

繊毛虫ミドリゾウリムシと緑藻クロレラの細胞内共生

*児玉有紀(島根大・生物資源),藤島政博(山口大・院理工)

ミトコンドリアや葉緑体を生み出した細胞内共生は現在でも多くの生物で見られ、新たな機能と構造の獲得による真核細胞の進化や多様性の原動力となっている。しかし、細胞内共生の成立機構はほとんど明らかにされていない。その最も大きな原因は、ほぼ全ての細胞内共生生物においては、互いの存在が生存に不可欠なまでに宿主と共生体の一体化が進んでいるため、人為的な共生体の除去や再共生の誘導実験ができないためである。これを可能にするのが繊毛虫のミドリゾウリムシである。ミドリゾウリムシは細胞質内に約700個の共生クロレラを保持しており、各クロレラはPV膜と呼ばれる共生胞に包まれている。PV膜には宿主のリソソームが融合しない。ミドリゾウリムシとクロレラは相利共生の関係にあるが、まだ互いの存在が生存に必須な段階ではなく、ミドリゾウリムシからのクロレラの除去や両者の混合による再共生が可能である。これは、両者の関係が動物細胞と藻類の細胞内共生による新たな真核細胞誕生の初期段階にあることを示している。

我々は、クロレラ除去細胞に共生クロレラをパルス的に与え、洗浄してチェイスする方法を初めてこの系に導入し、クロレラの再共生過程を明らかにすることができた。クロレラの再共生成立には次の4つのプロセスが必須である。(1)食胞膜内に包まれた一部のクロレラが、アシドソームとリソソームが融合した食胞内で一時的に消化酵素に耐性を示す。(2)食胞膜の出芽によってクロレラが宿主細胞質中に1つずつ遊離する。(3)細胞質中に遊離したクロレラを包む食胞膜がPV膜に分化する。(4)クロレラを包むPV膜が宿主細胞表層直下に接着して安定化し、細胞分裂を開始して細胞内共生を成立させる。本講演では、4つのプロセスに関する研究成果とミドリゾウリムシの有用性について述べる。


日本生態学会