| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S17-4 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物共生型農業の収益性

桑原考史(日本獣医生命科学大)

新潟県佐渡市における生物共生型農業は、冬期湛水や江の設置といった取組みに化学肥料・農薬の削減を組み合わせたものである。こうした栽培方法では一般に単位面積当たり収量(単収)は低下し、肥料費・労働費等は増加する。他方、生態系保全や生産物の安心・安全に対する消費者評価から、何らかの価格プレミアムが実現する。生物共生型農業が経営・経済的に成立するためには、後者が前者に見合う、あるいは上回る水準でなければならない。

本報告では、佐渡市において生物共生型農業に取組む代表的な経営体(複数)を事例として収益を試算し、経営・経済的成立条件の存否を検討した。その際、(1)組織形態や面積規模、将来展望といった経営の基本的特質、(2)栽培方法、(3)生産物(米)の販売という三つの要因に着目した。試算の結果、次のような結果が得られた。

第一に、消費者への直接販売(直販)実施時の収益は高く、単収減や生産コスト増を補償しうる。生物共生型農業の取組みと並行して直販比率を大幅に増加させている経営体もあり、特に単収が減少・不安定化しやすい無農薬栽培では直販の意義が大きい。とはいえ直販には、発送や顧客探索のコスト、代金決済リスク等の課題が存在する。

第二に、経営規模は面積当たりの収益に必ずしも関わらない。また一事例の観察からであるが、農地賃貸借等を通じた規模拡大プロセスにおける生物共生型農業継続の困難性が示唆された。生物共生型農業における「規模の経済」の作用メカニズム、生物共生型農業に取組む経営の展開論理は、今後解明するべき課題として残された。

以上より政策支援のターゲットとして、販売面では系統出荷、担い手では規模拡大プロセスの途上にある経営体を指摘できる。生物共生型農業の普及・定着に向け、栽培方法や生物量だけでなく、担い手や販売の実態にも着目した制度設計が必要である。


日本生態学会