| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第61回全国大会 (2014年3月、広島) 講演要旨
ESJ61 Abstract


シンポジウム S17-5 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物共生型栽培米への消費者評価

氏家清和(筑波大・生命)

本報告では,一般消費者のコメ購買行動を分析するため,仮想的選択実験データを潜在クラスロジットモデルにより分析し,消費者選好の異質性がどのような構造を持つのかについて検討した.さらに,会員制小売業者Aから提供を受けた購買履歴データを利用して,属性別のコメの購買層の重複性に着目し,Jaccard係数による商品類似性についての階層的クラスター分析も行い,表明選好の分析で得られた知見の確認を試みた.

分析の結果,複数の消費者選好のクラスを確認した.特に,消費者の約3割を占める食味・生態系重視層については,圃場の生物量,減減特性,食味への評価が非常に高いことが明らかとなった.実際,朱鷺と暮らす郷米について認知と購入経験との関係を見ると,このクラスの消費者においては,商品認知が高い比率で購入につながっていることが確認された.

また,実際の購買履歴データを利用した米商品の分類結果からは,環境保全型米に加えて,新潟県魚沼産米など食味がより良いとされる慣行栽培米が同一のグループに属していることがあきらかとなった.すなわちこれらの商品は購買層の重複が比較的多いということが示されている.環境保全型米を購入するような会員は良食味の慣行栽培米も購入しやすいことが示されており,表明選好での分析の通り,コメの環境関連属性を評価する消費者は,食味への関心も高いことをサポートする結果が得られた.

食味・生態系重視層は減減特性や圃場内の生物量に対する評価が高く,また比較的多く存在するため,生物共生型栽培米の重要なターゲットになりうるといえる.しかし,この層は食味に対する評価もまた極めて厳しい.「いきものにやさしい」などの甘いメッセージで需要を獲得できるほど消費者は甘くない.生物共生型栽培米の商取引を通して,幅広い消費者に環境保全に参加してもらうためにも,食味はやはり無視できないファクターであるといえる.


日本生態学会