| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA1-117 (Poster presentation)

花は誘引トラップ?食虫植物ナガバノイシモチソウの捕虫戦略

*田川一希(九大・院・シス生),渡邊幹男(愛知教育大・教育),矢原徹一(九大・理)

食虫植物は、昆虫を栄養分として利用すると共に、花粉の運搬も昆虫(ポリネーター)に頼っている。栄養分と送粉、という2つの面で利用する昆虫種が重複するとき、それをどのようなバランスで利用するかは、生存上重要な課題である。自家受粉が可能な種では、可能な限り多くの昆虫個体を餌として利用することが適応的だと考えられる。また、このような種においては、花は捕虫葉への誘引器官として機能する可能性がある。

発表者は、花と捕虫葉がごく近接した形態をもつ、アカバナナガバノイシモチソウ及びシロバナナガバノイシモチソウに着目した(以下、赤花、白花とする。なお、それぞれの種は異所的に自生する)。赤花と比較して白花は自家受粉率が高いことが分かっている(近交係数 赤花0.260、白花0.497)。自家受粉率の差異と、ポリネーター捕獲の実態は関連しているとの仮説を設定し、それぞれでポリネーター捕獲の実態を記録した。また、花の誘引器官としての機能を知るため、花をカットした集団とコントロール集団とでポリネーターの捕獲状況を比較した。さらに、同所的に自生する非食虫植物種の花をカットした集団とコントロール集団とで捕獲状況を比較した。

ポリネーター種のうち、餌昆虫としても捕らえられた種の割合は、赤花で0.071±0.175、白花で0.833±0.211(平均±SD)となり、白花でポリネーターが捕獲されやすいことが判った。この結果は、赤花と比較して白花で自家受粉率が高い実態と矛盾しない。赤花、白花いずれにおいても、花をカットした場合と花がある場合とで、餌昆虫の捕獲個体数に有意差はなかった。そのため、花が誘引器官として機能するとは言えなかった。ただ、同所的に自生する非食虫植物種の花をカットした場合、花がある場合と比較して、餌昆虫の捕獲個体数は有意に減少した。


日本生態学会