| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-176 (Poster presentation)

嚢舌類ウミウシにおける盗葉緑体能の進化

宮本彩加*(奈良女子大院・生物科学), 廣兼優(奈良女子大・生物科学),中野理枝(黒潮生物研究所), 平野弥生(千葉県立中央博物館), 北浦純(奈良市), 酒井敦, 遊佐陽一(奈良女子大, 生物科学)

盗葉緑体現象とは、ある生物が餌とする藻類から葉緑体を取り込み、自身の体内で維持し光合成に利用することを指し、動物界では嚢舌類というウミウシでのみ知られている。ただし葉緑体を体内で維持できる期間は、0日(盗葉緑体能をもたない)から数ヶ月と嚢舌類でも種によって大きく異なる。これまで、嚢舌類における盗葉緑体能の進化的意義については、ほとんど調べられていない。そこで本研究では、盗葉緑体能の獲得、および葉緑体の長期維持に関与したと考えられる生態的要因について調べた。

まず、沖縄本島から佐渡に至るまでの各地で嚢舌類を採集し、盗葉緑体能の有無と葉緑体保持期間を実験室で調べた。次に、生態的要因として主に日照時間と食藻密度、食藻硬度に着目し、それらが盗葉緑体能の有無および葉緑体保持期間に影響しているかどうかについて、一般化線形モデルを用いて調べた。

その結果、本研究で採集した嚢舌類の中で盗葉緑体能を持つ種のすべてがゴクラクミドリガイ上科に属しており、調査した3要因はいずれも盗葉緑体能の獲得には影響していないことが分かった。ところが葉緑体保持期間については、現場の日照時間が長くなるほど、また食藻密度が高くなるほど葉緑体保持期間は短くなる傾向があることが判明した。食藻硬度は葉緑体保持期間に影響を与えていなかった。これらの結果から、日照が短く、餌が不足している環境で葉緑体を長期間保持するように進化した可能性が示唆された。ただしこの結果には、嚢舌類の系統関係が十分に反映されていないため、今後、適切な系統的種間比較を行う必要がある。


日本生態学会