| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


一般講演(ポスター発表) PA2-184 (Poster presentation)

温度選好性の異なるアノールトカゲにおける温度応答の網羅的遺伝子発現解析

*赤司寛志(東北大・生命), Antonio Cádiz Díaz(ハバナ大), 重信秀治(基生研・機能解析セ), 牧野能士, 河田雅圭(東北大・生命)

近年の急速な温暖化による生息環境の変化は、活動時間や生息域など外温性動物の生態を時空間的に変化させる。一部のトカゲ類においては温暖化の影響が局所集団の大量消失につながる可能性も示唆されている。トカゲ類における温度適応機構の理解は、温暖化に対するかれらの生態学的応答を予測する上で重要であり、多様性の維持に繋がると考えられる。カリブ海の西インド諸島に生息するアノールトカゲは、近縁種間でも異なる温度環境に生息する種がおり、他の分類群に比べ温度環境選択において系統的な制約を受けにくいという報告がある。キューバ島全域に生息する近縁な3種(Anolis allogus, A. homolechis, A. sagrei)は、森林内の立木密度の不均一性によって生じた温度微環境の異質性をもとにニッチを分割している。本研究では、上記3種の温度環境に対する生理的応答の遺伝基盤を明らかにするため、26˚Cと33˚Cで5日間飼育した個体についてトランスクリプトーム解析を行なった。その結果、各種で約15,000遺伝子の発現を検出し、その内の約75%は3種が共通に発現させていた。温度によって有意に発現量が変化した遺伝子(DEG)は各種において約200~300個であった。ただし、皮膚組織におけるCYP2J2遺伝子を除くと、3種間で共通するDEGは検出されなかった。これは、発現させる遺伝子群は種間で似ているものの、温度に対する応答は種特異的な代謝経路によることを示している。本研究で検出した遺伝子群やその発現パターンは、生物の異なる温度環境への適応機構を理解する手がかりになると考えられる。発表では、遺伝子の機能にも着目し、近縁な3種における温度ニッチの分割を可能にした適応機構について議論する。


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