| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島) 講演要旨
ESJ62 Abstract


シンポジウム S07-6 (Lecture in Symposium/Workshop)

生物多様性の保全と合意形成〜佐渡島の里海再生を事例に〜

*豊田光世(東工大)

生物多様性地域連携推進法でも強調されている通り、地域固有の風土を尊重しつつ生きもの豊かな環境を保全するためには、地域住民、市民団体、行政関係者、専門家など多様な立場の人びとの連携と協働が不可欠である。このことは、保全事業の推進において、多角的視点を生かして活動実践の意思決定を行う合意形成のプロセスが重要であることを示唆している。多彩な価値観が混在する実社会において、多くのステークホルダー(SH)が納得できる決断を生み出すことは、コンフリクトを避けるためだけでなく、さまざまな人の協力のもと保全活動を長期的に継続していくうえで重要である。本発表では、新潟県佐渡市にある加茂湖という汽水域を事例として、生きもの豊かな水辺環境の保全に向けた合意形成プロセスと協働のしくみづくり、並びに地域主導の保全活動の実践による人びとのエンパワメントの成果と課題について報告する。加茂湖はカキ養殖業を主産業とする周囲約17kmの汽水湖で、周囲には多数の集落が点在する。所有主体は佐渡市であるものの、地域の自主管理を前提とする法定外公共物という位置づけにあり、流域の集落等が連携して市民主導で保全することが求められていた。加茂湖の環境保全の最も重要なSHは、カキ養殖業者であるが、四つの河川の河口部に位置するため、流域の農業者、住民、企業、学校など、この水辺の環境に影響を与えているSHは広域に分布している。多様な主体の連携を要する里海環境の保全のためには、活動を生物多様性の保全、及び漁業振興という視点からだけではなく、地域の多彩な関心のもと環境とその保全の価値を再定義しなおし、さまざまな活動へと発展させていく合意形成と協働のプロセス設計が重要であることを、事例をもとに考察する。


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