| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-044 (Poster presentation)

天然スギ集団の北限域におけるクローン構造および繁殖戦略

*初谷慶太(弘前大・院・農生),石田清(弘前大・農生)

多年生植物種の多くは有性繁殖とともに無性繁殖も行う。クローン繁殖を行う種ではその頻度が集団の維持や種の遺伝的多様性の決定に重要であり、一般的に分布範囲の地理的な限界など生存に不利な環境であるほどクローン繁殖が重要になる。また祖先や系統の差異などが、集団の遺伝的構造の差異やクローンの頻度の変動をもたらす。そこで本研究では、青森県に分布の北限があり、積雪量によって有性繁殖と無性繁殖のバランスを変化させることが知られているスギを調査対象種とした。本研究では、異なる標高域にある2つのスギ天然個体群に対してマイクロサテライト遺伝マーカーを適用することで遺伝子型を推定し、遺伝的構造と繁殖様式を比較することを目的とした。

青森県鰺ケ沢町矢倉山(標高250m)と南八甲田ソデガヤチ(標高860m)にそれぞれ調査区画を設置し、区画内のスギ成木(DBH≧5cm)の位置を記録し、葉を採取した。次に葉からDNAを抽出し、4遺伝子座についてマイクロサテライト遺伝子型を決定した。その結果、矢倉山では90幹から84個、ソデガヤチでは100幹から56個の遺伝子型が検出された。クローン多様性はソデガヤチ(G/N=0.560、Simpson’sD=0.965)よりも矢倉山(G/N=0.933、Simpson’sD=0.998)で高い傾向が認められた。また両区画のジェネット・ラメートレベルで血縁構造を調べたところ矢倉山では近距離で有意な正の同祖係数が認められ、ソデガヤチでは近距離で有意な負の同祖係数が認められた。以上のことから、矢倉山では有性繁殖が頻繁であるものの種子の散布距離が短いことや血縁関係のある個体が集中していることが示唆された。一方、ソデガヤチでは積雪などによる攪乱が厳しく伏条繁殖由来の個体が多いが、母樹の近くでは有性、無性繁殖由来の個体が共に少なく、高い遺伝的多様性が維持されていることが示唆された。


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