| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-021 (Poster presentation)

阿寒湖イベシベツ川湿地帯における植生と湿地の状況

*長倉 有理(酪農学園大),尾山 洋一(阿寒湖畔エコミュージアムセンター),鈴木 透(酪農学園大)

イベシベツ川湿地帯は阿寒湖の北東に位置している小規模の湿地帯である。阿寒湖の周囲約3,900㏊の山林は前田一歩園財団が保護管理を行い、原生的な自然が残っている。イベシベツ川湿地帯もその山林に存在するが、学術的な研究はこれまで行われてこなかった。そこで本研究は、イベシベツ川湿地帯の植生の特徴を把握することで湿地帯の環境を評価することを目的とした。

湿地帯に42地点の区画を設け、1m×1m区画内をブラウン・ブランケ法により種組成とその被度・群度を把握した結果、18科36種の植物種が確認でき、絶滅危惧種が4種、準絶滅危惧種が1種、阿寒指定植物が4種出現した。

地点毎の植物種の違いを把握するため、非計量多次元尺度法(NMDS)により序列化、クラスター分析によりグループ化を行った。グループ化の結果、湿地帯の種組成は3つ(湿地林、低層湿原、Laggと称する)に分類された。各グループの種数には有意な違いがあり(P<0.01)、湿地林は種が多様で、低層湿原とLaggはヨシが優占し、種数も少なかった。さらに、種組成と環境の関係を明らかにするため湿地帯内のpHと土壌水分を測定し、冗長分析(dbRDA)を行った。その結果、湿地林と低層湿原ではpHの影響が大きくみられた。対して、LaggではpHの影響が小さかった。湿地帯では土壌中で植物の脱窒が多く行われ、亜酸化窒素(N₂O)が発生するため、湿地林と低層湿原ではpHが変化することにより影響が大きかったと考えられる。Laggは流水により常に水が循環しておりpHの影響が低かったと考えられる。土壌水分は低層湿原とLaggで影響が小さく、湿地林では土壌水分の影響が大きい傾向がみられた。これらは地表面より水位が高かった2つのグループは小さくなり、湿地林では地表面と水位が一致したことが影響を大きくした要因と考えられる。


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