| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-454 (Poster presentation)

屋久島森林生態系における土壌栄養塩可給性の標高変化に伴う細根動態

*向井真那(京大・農), 相場慎一郎, 澤田佳美(鹿大・理工), 北山兼弘(京大・農)

細根は土壌の水分や栄養を吸収する役割を持ち、その動態は森林の栄養塩循環に大きく影響する。これまで、温度や土壌栄養塩可給性の低下とともに樹木は地下部生産を増加させることが示されてきた。本研究では屋久島の標高傾度をモデルとし、気温の低下(標高の上昇)と土壌栄養塩可給性の低下により細根生産がどのように変化するのかを明らかにすることを目的とした。

屋久島の標高の異なる7つの森林調査区(標高170-1550m)から表層10cmの土壌を採取し、土壌の栄養塩可給性(全リン濃度、窒素純無機化速度)を調べた。同様に表層10cmから細根を採取し現存量を求めた。また、各調査区に20個のイングロースコアを埋設し、1年後に回収して年間細根生産速度を求めた。細根現存量と細根生産速度の比から細根の回転速度を求めた。さらにイングロースコア内に入った細根の長さを画像解析ソフト(WinRHIZO)により計測し、根長/根重比を算出した。

標高の変化(温度の指標)に対する細根生産速度は山型のパターンを示した。細根生産速度は、土壌リン可給性とは相関せず、土壌窒素可給性とは正の相関を示した。このように、屋久島では土壌栄養塩可給性の低下や温度の低下に伴い細根生産速度が増大するわけではなかった。さらに高標高で貧栄養環境に分布する針葉樹林の細根の根長/根重比は高く、細根の回転速度は小さかった。貧栄養環境下では、地下部への投資量は小さいが、樹木は根長/根重比を増大させて、さらに長寿命の根を生産し、効率的に栄養塩を獲得する戦略を取っている可能性がある。このように屋久島では栄養塩可給性や温度の低下に対して優占種が広葉樹から針葉樹に変化し、それを反映して細根の寿命や形質も変化することで細根生産速度のパターンが決定されている可能性が示唆された。


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