| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-458 (Poster presentation)

スギの植林が集水域内の金属イオン物質動態を変える

*太田民久, 日浦勉

環境中の物質は様々な生物に代謝され、循環している。しかし、その生物が駆動する物質循環(特に金属イオン循環)には未解明な過程が多く存在する。カルシウムは生物の必須元素の一つであり、環境中のカルシウム可給性の変化はそこに生息する生物の群集や個体群に有意な影響を与える可能性がある。我々が2012年に行った調査により、貧カルシウムな生態系では集水域林がスギ人工林で構成されている場合、天然照葉樹林と比較して土壌および河川水中のカルシウム濃度が有意に上昇することが観察された。そして、その土壌および河川水中のカルシウム濃度の変化に伴い両生態系の甲殻類密度が著しく変化していた。我々は上記のような現象が生じるメカニズムを検証するため、室内実験と野外調査を行ってきた。その結果、スギは根の有機酸(フマル酸やマロン酸)放出速度が高く、土壌中の金属イオン動態に影響を及ぼしていることがわかった。さらに、植生が異なる18地点で河川水のストロンチウム同位体比を測定した。その結果、河川水のストロンチウム同位体比は集水域面積と正の相関がある一方で、集水域がスギ林で覆われている河川で有意に高い傾向を示した。このことは、スギ林流域ではストロンチウム同位体比が高い基盤岩由来の物質を多く含んでいることを示唆している。このことから、スギは有機酸の放出等により基岩や土壌由来の物質を多く河川に供給している可能性があると我々は考えている。本研究は、環境中のCaを始めとした金属イオン循環と生物との関係を解明する上でブレイクスルーとなるかもしれない。


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