| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第63回全国大会 (2016年3月、仙台) 講演要旨
ESJ63 Abstract


企画集会 T01-3 (Lecture in Symposium/Workshop)

発見率を考慮した、ナラ枯れ・シカ増加後の下層植生の変化の解析

伊東宏樹(森林総研)

本州日本海側を中心に発生しているナラ類集団枯損(ナラ枯れ)の被害地で、ニホンジカ増加の影響が広葉樹二次林の下層植生にどのような影響を及ぼしているのかを解析した。調査は、京都市左京区の銀閣寺山国有林内の広葉樹二次林に設定した調査区(50m×100m)で実施した。調査区を5m×5mの方形区に分割し、ナラ枯れ・ニホンジカ増加前の1992年と、後の2014年のそれぞれの時点での、方形区ごと樹種ごとの下層木(当年生を除く実生から、胸高直径3cm未満まで)の発見頻度の変化をモデル化した。このとき、実際にその下層木が存在するか否かを潜在パラメータとし、ある発見率をもって観測されるとした。発見率は樹種および調査時期によらず一定とした。1992年から2004年までの下層樹種の消長は、存在していた方形区に残存している確率と、存在していなかった方形区に新たに定着する確率をパラメータとして定式化し、これらにギャップ内であるか否かが共変量として影響するとした。また、残存および定着についての樹種の影響をランダム効果としてモデルに組み込んだ。

JAGSを使用して、MCMCによりパラメータを推定したところ、発見率の事後平均は0.93、95%信用区間は0.90〜0.95と推定された。残存率が高かったのはアラカシ・サカキ・ヒサカキなどであり、低かったのはアオキ・シャシャンボなどであった。一方、定着率が高かったのはクロバイ・アラカシなどであり、ギャップ内での定着率が高かったのは、ヤブニッケイ・クロバイ・ナンキンハゼなどであった。発見率は高く推定されたが、対象が植物であり、方形区ごとに全域を調査していることを考えると妥当であると考えられた。ただしこれには、発見率を樹種によらず一定としたこと、アラカシのような、各調査回ともに観測頻度の高かった種があったことが影響したと考えられた。


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