| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-059  (Poster presentation)

旧薪炭林におけるシカの採食圧と林冠木の伐採が不嗜好性植物の成長と防御に与える影響

*高木豊大(東京大学大学院新領域創成科学研究科), 楠本大(東京大学田無演習林), 鈴木牧(東京大学大学院新領域創成科学研究科)

 旧薪炭林では、管理不足とニホンジカの過度な採食圧による下層植生の衰退が懸念されているが、そのような林床でも一部のシカ不嗜好性植物が繁茂している。それらの植物が繁茂できる理由は明らかではない。資源利用性仮説によると、暗所では成長が遅く防御を優先させる種が生育すると予想される。この予想を用いて、旧薪炭林の林床において、シカ不嗜好性植物であるイズセンリョウが繁茂する理由を説明できるか検討した。
 8年前に部分的に上層木伐採を行った旧薪炭林の、伐採区と非伐採区に設置した防鹿柵の内外で、全ての実験区に出現したイズセンリョウを調査した。各実験区に出現したイズセンリョウの葉を採取し、SPAD値、LMA、防御物質量(フェノール、タンニン、サポニン)を測定し、また各実験区の開空度を調べた。その結果から、光環境とシカの採食圧の有無によるイズセンリョウの防御投資の変化を調べた。
 イズセンリョウの機能形質値のいずれも、伐採および防鹿柵の単独の影響に対しては有意な反応を示さなかったが、フェノールとタンニンの含有量およびLMAは伐採+柵無区において他の実験区より大きかった。また、開空度は伐採+柵無区で最も高かった。イズセンリョウは光環境の改善とシカや昆虫などの植食者に対して、これらの防御形質値を変化させたと考えられる。一方、本植物にとって最も有効な対シカ防御物質と思われるサポニンの含有量は、フェノールの約10倍であり、実験区内で有意差を示さなかった。サポニンはトリテルペン類に糖が結合した配糖体であり、トリテルペンも糖も生体構成成分として豊富に存在することから、恒常的防御として機能している可能性がある。
 以上のように、イズセンリョウが繁茂する理由は資源利用性仮説で説明できた。イズセンリョウは明条件下のみで発動する防御機構と、光条件によらない恒常的防御を併用することで、シカの採食を回避しつつ旧薪炭林で優占できている可能性がある。


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