| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-060  (Poster presentation)

大峯山系弥山におけるシラビソ林の変動とニホンジカの食性

*深川幹(奈良教育大学大学院教育学研究科), 辻野亮(奈良教育大学自然環境教育センター)

大峯山系弥山のシラビソ縞枯れ林は,1990年代頃からニホンジカが増加し,過剰な採食圧を受けた植生の衰退が知られている.しかし,ニホンジカの食性や生息密度といった情報は不足しており,貴重な弥山のシラビソ林を保全するためには森林の変化とニホンジカから得られる情報を継続的に調査しながら比較検討していくことが求められる.本研究では,弥山山頂周辺において,糞分析によりニホンジカの食性とその季節性を明らかにし,2009年以降継続調査されてきた樹木調査及びニホンジカの生息密度推定の結果と比較検討しながらシラビソ縞枯れ林の存続可能性について検討した.
 糞分析の結果,樹皮・樹枝の出現率には季節性があり,餌資源の豊富な夏期に多く採食していることがわかり,剥皮は餌資源の不足からくるものではないと示唆された.
 ニホンジカの生息密度は2009年と比較して半分程度だった (1.8~32.4 頭/km²).しかし,現在でもニホンジカの影響を受けている他地域と比べても生息密度が高いことが示された.また,夏期に高い一山型の年変動がみられた.
 樹木調査では,実生の死亡率がニホンジカの生息密度とよく対応して変動しており,実生と稚樹は調査開始時の2009年と比較して増加していた.しかし,成木は減少しており,シラビソ成木数の変動モデルを立てて簡単な動態シミュレーションを行ったところ,新規加入成木数とニホンジカにより新規にダメージを受ける個体の割合が大きく改善しないと今後も成木数は減少を続けることがわかった.
 以上の結果から,調査地のシラビソ縞枯れ林は不可逆的な改変を受けている可能性も考えられ,今後ニホンジカの生息密度を減じれば健全な森林更新が取り戻せるとは限らない.しかし,ニホンジカによる影響を減じなければ森林の消失へ向かうことは自明であり,今後も継続的にモニタリングしていくことでシラビソ林の更新可能性を検討していく必要がある.


日本生態学会