| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-061  (Poster presentation)

シカの影響による下層植生の経年変化と土壌物理性劣化の評価

*原田憲佑, 鈴木牧(東京大学大学院)

近年個体数の急増しているシカの採餌行動は、下層植生の消失や種構成の変化を通じて、土壌環境の劣化や不嗜好性植物の優占を起こしている。生態系へのシカの影響は短期的なシカ密度の関数ではなく、経年的に累積すると考えられるが、そのような累積効果の定量は今まで行われていない。
本研究では、11年前に南房総の広域で行われた植生調査(Suzuki et al. 2008)の追跡調査を行い、シカ密度と植被率の関係が11年でどう変化したかを調べることで、植生への累積的影響を評価することを試みた。また、各調査地において土壌の密度や孔隙率を調べ、シカの踏圧や植被率の減少により土壌環境へダメージが蓄積している可能性を検討した。

同程度のシカ密度(DDI:1m2当たりの糞粒数)における2005年と2016年の植被率を比較したところ、広葉樹林では両年の植被率は同程度だったが、スギ人工林では2016年の植被率が2005年の植被率を下回った。11年の間にDDIが減少した調査地もあったが、植被率は回復していなかった。そのような調査地は、2005年時点ですでにDDIが高く、急斜面地に位置していた傾向があった。また11年の間にDDIが減少し、植被率が増加した、または高いまま維持された調査地もあり、それらの場所では不嗜好性植物が優占していた。
以上のように、シカの影響の累積に対する植被率の反応は、上層植生、地形条件、不嗜好性植物の優占度により異なった。シカの密度が減少しても植被率が回復しなかった、あるいは不嗜好性植物の優占が継続されていた調査地では、植生のレジームシフトが起こっている可能性がある。

一方、本研究では、土壌物理性はDDIや植被率と相関がみられず、シカの影響の蓄積による土壌物理性の劣化は確認できなかった。
なお、本研究の調査地ではキョンも生息しており、発表ではキョンの影響も加味した解析結果を報告する予定である。


日本生態学会