| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-064  (Poster presentation)

食害を受けた風媒草本ブタクサの補償成長

*中原亨(九州大学), 深野祐也(東京大学), 矢原徹一(九州大学)

風媒花は草丈が高いほど花粉散布に有利でオス適応度が増加するため、草丈の増加とともに性配分がオス機能に偏ると言われている。そのため食害や草刈りにより生長点が損傷すると、花粉散布距離が減少してオス適応度が低下する恐れがある。一方メス適応度は、オス適応度ほど草丈低下の影響を受けない。よって風媒花は、生長点への損傷に対して性配分の変化を含む補償をしている可能性がある。我々は、茎頂の損傷により主茎の伸長が停止した株では、(1)伸長成長が弱まる一方で性配分がメス機能に偏る、(2)側芽による伸長成長が促進され、非損傷株と同様の草丈と性配分が達成される、という2つの仮説を立てた。これらを検証するために、我々は雌雄異花同株の風媒草本ブタクサを材料とした実験と野外調査を行った。実験では、花芽形成期の直前に茎頂・葉(2枚、4枚)を切除した処理区と無処理区の4群を用意し、主茎の高さ、側芽を含めた草丈、雄性花序・雄花・雌花数、花の性比を比較した。野外調査では、2カ所の帰化集団において、主茎の高さ、側芽を含めた草丈、雄性花序数を茎頂損傷株-非損傷株間で比較した。実験の結果、茎頂切除株の主茎は伸長を停止しており他の3群より低かった。一方、茎頂切除株の草丈は1群とは有意差がなく、残る2群との差も小さかった。雄性花序・雄花・雌花数、花の性比に群間で有意差はなかった。草丈を考慮した性比の解析では、草丈の増加に従い花の性比がオス機能に偏る一方、群間で有意差はなかった。野外調査では、茎頂損傷株の主茎が非損傷株よりも低かった一方で、他の形質では茎頂損傷株-非損傷株間に有意差はなかった。以上より、仮説(2)が支持された。結論として、ブタクサは茎の損傷による適応度低下を草丈の回復と通常の性配分によって補償していることが示唆された。垂直方向への再生長を介した補償は、草丈が生存・繁殖上重要な、競争の激しい種や風媒種で有利かもしれない。


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