| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-B-085  (Poster presentation)

マルハナバチによる盗蜜が、ウツボグサとオドリコソウの適応度に場所特異的に悪影響をおよぼす

*江川信, 市野隆雄(信州大学)

 訪花者が花筒の基部などに穴をあけ蜜を吸う盗蜜行動を行う場合がある。盗蜜は植物にダメージを与える上に、送粉者の行動に影響を与えることで、植物の適応度には負の影響を与えると考えられている。しかし、盗蜜頻度の地理的変動や、盗蜜が植物の適応度に及ぼす影響については不明な点が多い。本研究では多年生草本のウツボグサとオドリコソウについて、盗蜜頻度の地理的なパターンを明らかにするとともに、ウツボグサについて盗蜜が適応度におよぼす影響を評価した。
 乗鞍岳、美ヶ原、御岳山の3山域において、盗蜜頻度と訪花観察を行ったところ、オドリコソウ、ウツボグサともに盗蜜頻度が地点間で異なり、ウツボグサでは盗蜜頻度が季節間で変化した。オドリコソウでは、オオマルハナバチが花序を食い破る一次盗蜜を、コマルハナバチが盗蜜痕から蜜を吸う二次盗蜜を行っていた。一方、ウツボグサでは花期の最盛期には盗蜜がほとんど見られず、乗鞍岳の標高2000m付近の1地点(地点A)においてのみ、花期の終盤にヒメマルハナバチによる一次盗蜜および二次盗蜜が見られた。また、地点Aにおいて、盗蜜が生じるまでは、ナガマルハナバチの正当訪花が観察された。
 盗蜜がウツボグサの結実に与える影響を調べるため、地点Aの花期の前半の花序と花期の後半の花序、および地点Aの後半と同時期に開花していて盗蜜の生じていなかった地点(地点B)の花序で結実率を比較した。その結果、結実率は地点間で有意に異なり(P < 0,0001, F = 16.28)、地点A後半、地点A前半、地点Bの順に結実率が高くなった。
 以上の結果より、盗蜜頻度には場所的、季節的変動がみられ、ヒメマルハナバチによる盗蜜がウツボグサの適応度に対して悪影響をおよぼすことが明らかになった。


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