| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-187  (Poster presentation)

有田川水系支流におけるアマゴの性に​関連した初期生活史多型の解明:性判別DNAマーカー分析によるアプローチ

*上田るい(神戸大・理), 武島弘彦(総合地球環境学研究所・研究高度化支援センター), 宇梶伸(神戸大院・理), 佐藤拓哉(神戸大院・理)

生物が生活史初期に経験する成長は、生活史全体に影響する重要な要素である。成長から受ける利益は性によって異なるため、初期成長やその環境応答性は、性に依存する可能性がある。しかし、多くの魚類では、生活史初期には外部形態による性判別が困難である。そのような中、近年サケ科魚類ニジマス(Oncorhynchus mykiss)で雄特異的性決定遺伝子(sdY)が同定された。本研究では、近縁種のアマゴ(O. masou ishikawae)を対象に、sdYの塩基配列に基づいて設計された雄性判別DNAマーカー(Yano et al. 2012)の適用可能性を評価した。その上で、餌資源量が増加する季節(春/夏)を操作する野外実験を行い、当歳魚の成長パターンと性の関連を検証した。

表現型の性を確かめた雄21個体と雌32個体をマーカー評価の対象として、PCR法とアガロース電気泳動を行い、増幅バンドの有無による性判別を行った。その結果、表現型雄の全てでバンドが確認された一方、表現型雌17個体でも類似のバンドが確認された。表現型雄の検出バンドに比べ、雌で見られたバンドの増幅量は少ない傾向があった。両者の増幅バンドの塩基配列を決定したところ、表現型雌の増幅産物では3サイトで塩基多型が検出された。暫定的に、雄性判別マーカーを野外実験の当歳魚117個体に適用し、①遺伝的雄、②sdYと類似の塩基配列をもつ個体、③sdYをもたない遺伝的雌に判別した。次に、潜在変数(≈成長戦略)を個体に関連付けた混合分布モデルで成長パターンを解析したところ、2つの成長戦略(高/低 成長戦略)を含む最適モデルが選択された。2つの成長戦略に占める雄(①)と雌(③)の割合を評価したところ、春に餌資源が多い実験区の雄で、最も顕著に高成長戦略が採択されていた。

sdYに基づく性判別の妥当性の評価は必須であるものの、アマゴの初期生活史の多様化には、餌環境条件の季節性に対する性依存的な成長応答が重要である可能性が示唆された。


日本生態学会