| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-F-210  (Poster presentation)

コイ科魚類の繁殖フェノロジー

*伊藤雅浩(東京海洋大), 児玉紗希江(中央水研), 藤森宏佳(中央水研), 箱山洋(東京海洋大, 中央水研)

魚類の繁殖タイミングは、種内・種間の資源競争に大きな影響を受けて進化した形質であると考えられる。形態と生態的ニッチが比較的近いコイ科魚類の幾つかの種は餌となる動物プランクトンの増殖盛期の前後で繁殖するが、早い時期に産卵すると水温が低いため稚仔魚の成長が悪く、一方で遅い時期に産卵すると成長が遅れて餌競争で不利になったり、他の稚魚から捕食されやすくなる可能性がある。また、餌の多い時期でも稚魚のハッチが集中しすぎると個体あたりの餌獲得が小さくなる(理想自由分布)。さらには、繁殖タイミングのずれは稚魚の長期的な成長にも影響を与え、冬越しの体サイズにも影響してくるだろう。ここでは、同所的に生息するコイ科3魚種(ウグイ・オイカワ・モツゴ)について、長野県上田市の千曲川中流域の水路において6月から2月にかけて仔稚魚の採捕・放流調査を行い、採捕した仔稚魚の全長を計測し成長曲線を当てはめることで、成長率や冬期のサイズの違いを比較した。結果として、ウグイ・モツゴは6月までに孵化し、夏にかけて短期間で早く成長したのに対し、オイカワの孵化時期は7月と遅く、孵化後の成長率も2種に比べて小さい傾向があった。また、成長の早いウグイ・モツゴの稚魚は成長とともに体長のばらつきが大きくなったが、オイカワの稚魚ではばらつきは比較的大きくならず、オイカワでは個体間の成長差が小さい可能性があった。さらに、ウグイ・モツゴが5-6cm程度の体長で越冬するのとは異なり、オイカワが2-3cmの小さな体長のまま越冬することが明らかになった。オイカワ稚魚は翌春のプランクトンの発生時にはその年生まれの稚魚より大型で餌競争において有利であるから、春の早い時期に急速に成長する戦略を取っている可能性がある。講演では、観察された繁殖タイミングと成長のパターンについて適応的な観点で議論する。


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