| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-N-378  (Poster presentation)

窒素負荷が落葉広葉樹の開花結実に及ぼす影響

*須貝菜穂(岡山大・農), 宮崎祐子(岡山大院・環境生命), Jin Lee(北大・苫小牧研究林), 長田典之(北大・苫小牧研究林), 中路達郎(北大・苫小牧研究林), 日浦勉(北大・苫小牧研究林)

 近年、人為活動による大気中への窒素放出が急増し、降雨などを通した陸上生態系内への窒素供給量が増加している。このような地球規模の環境変化により、種子生産量の豊凶サイクルが変化することが示唆されている (Övergaard et al. 2007) が、結実量への影響や樹種による反応の違いなどは明らかになっていない。そこで本研究では、林分スケールで窒素が過剰に供給されたことを想定した施肥実験を行い、窒素負荷が落葉広葉樹の開花結実に与える影響を評価した。
 調査は北海道大学苫小牧研究林で行った。研究林内に施肥区と対照区をそれぞれ10haずつ設け、施肥区には粒状尿素を100kg-N/haとなるよう散布した。施肥区と対照区にそれぞれリタートラップを20基ずつ設置し、リタートラップの内容物を月一回の頻度で回収した。回収した内容物は本調査林分の優占樹種であるイタヤカエデ、オオモミジ、ミズナラの3種を対象とし、それぞれについて雄花、雌花、果実(種子)を選別し、個数および乾燥重量を測定したのち、それぞれのトラップにおける生産量の年変化を施肥区と対照区で比較した。
 イタヤカエデ・オオモミジについては種子生産量が年変動し、種内で同調することが確認されたが、2種とも処理区間で種子生産量に有意な差は見られず、不健全果率についても窒素による影響は見られなかった。ミズナラについては施肥区において、対照区よりも不作年の繁殖器官量および雌花開花数が大きい傾向が観察された。一方で堅果生産量には処理区間で違いが見られなかった。施肥区において2014年8月の雌花の中途落下量が有意に大きく、堅果の虫害率が高い傾向が観察されたことから、窒素施肥はミズナラにおいて雌花の開花数を増加させるものの、雌花の中途落下(成熟前の落下)の増加や、堅果虫害の増加によって堅果生産の増加には至らない事が示唆された。


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