| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P1-N-391  (Poster presentation)

ブナ林-亜高山帯針葉樹林エコトーンにおける個体群動態:空中写真で見る30年間の変化

*伊豆凜太郎, 中静透(東北大・院・生命科学)

 気候変動の影響による山岳地域エコトーンの移動は数多く報告され、それによる生物多様性や生態系サービスの劣化が懸念されている。植生分布の変化実態やその要因は適応策の策定に重要だが、日本の山地帯-亜高山帯エコトーンにおける研究例は少ない。本研究では、近年の気候変動が山地帯ブナ林-亜高山帯針葉樹林のエコトーンに与える影響について、(1)最近約30年間のエコトーンの上昇実態と、(2)植生変化の程度に影響する要因を明らかにすることを目的とした。また、空中写真解析と現地調査を併せることで広範囲で相補的な調査を行った。
 空中写真による調査では、自然状態に近いブナ林-亜高山帯針葉樹林エコトーンがある17山地について、1980年頃と2010年頃の空中写真を立体視し、50×50mプロット(総数480個)内の広葉樹、針葉樹、低木、ササの被覆面積を計測、比較した。解析の結果、調査地全域の変化では、針葉樹の増加、低木の減少、ササの増加が有意に起こっていた。山地ごとに見ると、高緯度ではエコトーンが上昇したものの、低緯度では針葉樹が増加しエコトーンは下降しており、その要因としては緯度やWIの変化量が重要であった。
 現地調査では20山地において登山道沿いに様々な標高で枯死木の種を同定するとともに、これを中心としたギャップ(総数422個)において、林冠木・低木の各層でのブナ・針葉樹の出現を記録した。解析の結果、低標高の針葉樹は衰退したもののブナの高標高への移動は停滞していた。移動の程度は、夏期最高気温、年間降水量、夏期降水量などによって説明された。
 高緯度地域では、両手法ともエコトーンの上昇を示したが、低緯度では手法間で相反する結果となった。空中写真調査のサンプル数は多く信頼性が高いと考えられるが、温帯針葉樹や亜高山帯落葉樹などが区別できていない。また、調査のスケールにより要因が異なる可能性も考えられる。


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